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第2回では製造現場視点から生産特性を類別し、類別ごとの課題把握とソリューションの方向性について述べました。また、ROIC向上の方向性として①売上向上、②費用低減、③資産回転率向上の3つがありますが、製造現場視点ということから主に②と③についてバッチプラント型製造業と加工・組立系製造業に類別して述べてきました。
本コラムでは、経営視点でのROICを用いた経営課題の見える化及び改革実行のポイントについて述べたいと思います。
1 経営課題の見える化
ROICや売上高利益率などの指標は結果としての経営良し悪しの把握は可能ですが、重要なことは把握した結果に対して何を改善すべきかを明確にすることです。経営課題をいかに見える化し、即座に手を打つことができる自社にあった仕組みを構築し、改善サイクルのスピードを速めることがROIC経営を機能させることと考えます。図表1で経営課題を把握するための見方の例と、そこから現場管理の指標に展開をしている例を示しています。この中で売上に対する課題把握方法として「①製品(群)別ポジショニング比較」、原価や貢献利益に対する課題把握方法として「②標準原価差異」「③損益分岐点」を取り上げ、管理方法と実行のポイントについて紹介します。
2 製品(群)別ポジショニング比較
ROICの特徴は「事業別に・分けて・見ること」にあり、ここでは同一事業の製品(群)においてのポジショニング分析例を図表2に示しています。現時点における製品の良し悪しを把握する見方となります。プロダクトライフサイクルは新商品を市場に投入してからの導入期・成長期・成熟期・衰退期という各ステージを時系列に示したものです。各製品(群)がどのステージにいるかによって、撤退・投資中止・投資削減・投資継続・投資開始の方向性を経営として意思決定する見方です。プロダクトポートフォリオは市場成長率とシェアのマトリクスに各製品(群)をプロットして方向性を意思決定する見方です。自社製品だけでなくライバル製品を含めた比較検証をすることができます。現状を把握し、中長期的な製品戦略を示すことが分析の目的になります。
原価差異から現場で管理するKPIに展開し、マネジメントを機能させるためのポイントについて図表4で示します。ここではKPIの展開例と「どのようなスパンで」「誰が」「どのように」管理・活用するのかを示しています。ポイントは会議体を設置し、その目的・役割・対象者を明確に定義することです。マネジメントも予定と実績の差異把握を確実に行うことが重要であり、このように定義した会議体が定義した通りに実行され、機能しているかを振り返り、仕組みそのものも改善していくことが管理者には求められます。
標準原価差異は製品(群)別に製造の良し悪しを把握し、「要因を掴んで改善に繋げる」分析方法でした。損益分岐点は製品(群)の「結果的な儲け度の良し悪し」を見る方法となります。現場で一生懸命改善を実施した結果は利益貢献に反映されていなければなりません。
図表5に損益分岐点分析の2つの見方を示しています。視点1は固定費の回収状況推移を毎月モニタリングする見方です。第2回コラムで示したように製造業は「品種・生産量」と「製品形態」で類別されますが、例えばバッチプラント型や連続プラント型のような形態では、設備主体で設備に関わる固定費が占める割合がそれなりに高いと想定されます。その場合、売上に応じて固定費がどれだけ回収できたかが重要で、このように毎月の実績をモニタリングすることが有効となります。固定費を回収できれば、あとは設備稼動率を上げた分だけ儲けに繋がることになるためです。
視点2は損益分岐の達成状況推移を毎月モニタリングする見方です。予算と実績を比較し、実績進捗から損益分岐を超える時期がいつなのかを予測修正しながら、販売価格の方向性を意思決定する活用方法が考えられます。損益分岐を予定よりも上回る実績であれば、多少の価格値下げをしても受注数が増え、設備稼動率が向上し、トータルの利益がより多く確保できるため値下げ指示をかけるといった活用方法です。損益分岐点はこのように経営意思決定を有効に行うための分析方法と言えます。
②製造の良し悪しを把握する手段としての標準原価差異分析
③製造の改善結果としての儲け度を把握する手段としての損益分岐点分析
筆者プロフィール
山本 真也(やまもと しんや)
生産コンサルティング事業本部 生産エンジニアリング革新センター
E-Mail : shinya_yamamoto@jmac.co.jp
経歴
2002年 慶応義塾大学商学部 卒業
2007年 事業会社を経て、株式会社日本能率協会コンサルティング入社
2014年 チーフ・コンサルタント
製造業を中心に 品質、コスト、リードタイムの革新活動、ものづくり人材育成体系構築、生産管理・生産システム構築、
スマートファクトリー構築支援といったコンサルティングテーマで支援をしている。
【主な著書・論文等】
・第66回全日本能率連盟論文大会 全能連賞受賞
テーマ:「装置系製造業における 設備&労働生産性改革」
・「5S」通信教育テキスト
・生産技術者マネジメントガイドテキスト
・「医薬業界のモノづくりにおける環境変化と課題」
・ICT・IoT・AI等活用事例集
本コラム一覧
第1回 製造業におけるROIC経営-資本生産性向上により企業価値を高める-
第2回 製造業におけるROIC経営-製造視点からの改善方向性-