更新日:2021年7月



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経営成果を測るモノサシは時代の変化と共に「売上重視」「利益重視」「キャッシュフロー重視」と変遷してきました。その内容はより高度化し、近年のトレンドは株主価値重視にあります。キーワードとしてはROA、ROE、ROIC、企業価値といった言葉がクローズアップされますが、どれも財務成果の株主還元が重視されています。株主の期待は配当と株価の上昇にあるため、企業としては事業に投下した資本をいかに効率的に回し、収益向上に寄与した取り組みを行えているかを示すことが重要と考えます。

本コラムでは事業別に収益管理が可能であるROIC(投下資本利益、Return on Invested Capital)を取り上げ、ROICの概要及び製造業においての活用のポイントについて述べたいと思います。
第2回では、製造現場視点での生産特性に応じた課題とソリューションの方向性
第3回では、経営視点でのROICを用いた経営課題の見える化及び改革実行のポイント
について述べたいと思います。 


 1    ROIC とは                                                                                        

ROIC(投下資本利益率、Return on Invested Capital)とは、以下の式で示せます。 

 ROIC = 税引後営業利益 ÷ 投下資本 

この指標により、事業活動のために投じた資金(投下資本)を使って、企業がどれだけ効率的に利益に結びつけているかを知ることができます。この指標のメリットは「事業別に・分けて・見る」ことができることにあります。投下資本に事業資本以外は含めないため、真に事業の収益性を示すことができます。複数事業を持つ企業でも、事業別ポートフォリオによる比較評価や製造現場での改善活動とその成果を、管理指標で紐づけて評価できるということです。 


 2    KPIの設定とよく見られる困りごと                                                             

製造業ではKPI(重要管理指標)として財務視点(売上やコスト)、生産プロセス視点(生産性、品質不良、稼動率など)、CSR視点(顧客満足度や従業員満足度など)を設定されていることが多く見られます。一方で設定したKPIとマネジメントでの活用という点で十分に機能していないことも多いようです。よく見られる困りごとは2点あります。

   管理指標が連携していない  
1つ目は、経営レベル・事業部レベル・現場レベルで用いられている管理指標が連携せず、断層が生じていることです。それぞれのレベルでそれぞれが指標を設定し、管理はしていますが、レベルごとにぶつ切りであり関連性がないと、例えば現場の生産性は上がっているのになぜ利益が改善されないのか、という問いに答えられない現象が起きてしまいます。もっと言うと、せっかく現場で知恵を絞って改善したことに対して、成果が出ていないと評価されないことになってしまいます。これでは現場のモチベーションは下がり、経営との溝が深まってしまうことになります。

   目標認識が一致していない  
2つ目は、経営層と現場で目標認識が一致せず、設定したKPIが形骸化してしまうことです。経営層から○%のコストダウン、と目標が下りてきても、必要性と実現可能性が乖離した状態だと現場としては納得できず無理と考え、結果的に目標未達となります。或いは報告ばかりに追われてしまい、管理・改善の目的でなく、集計目的になってしまう現象が起きてしまい、現場としてはKPIの設定など意味がないという認識になってしまいます。


 3    ROICを活用して経営から現場まで繋がった指標を展開する                                

上記で述べたようなことを解消するには「経営から現場までを繋げる」ことが重要で、経営も現場も共通した指標を見てベクトル合わせをできる状態を整えなければROIC経営は機能しません。ROICの計算式を分解し、分子は売上高利益率、分母は投下資本回転率という指標に置き換えて考えます。単純化するとROICを向上させるためには、次の3つの方向性に集約されます。 

 ①売上を向上する 
 ②費用(製造原価及び販管費)を下げる 
 ③資産の回転率を上げる 

3つの方向性に対して各部門が取り組む課題を展開し、金目軸で管理する経営管理の指標と現場での課題をマトリクスで紐づけをすることで経営と現場の繋がりを示すことができます(図表1)
このような課題の展開を見える形で落とし込み、経営から現場までの全部門が納得し、共通認識を取ることが重要です。 


図表1 ROICの経営管理指標・現場管理課題の展開(例)




 4    現場管理の指標は施策の良し悪しを判断できるものや時間軸で設定する                 

経営管理の金目指標と現場で行う課題を図表1のようなマトリクスで整理したのち、現場では実際に改善施策を実行していきます。その進捗や成果の良し悪しを判断できるような指標の設定が、マネジメントにおいては重要となります。ただし、製造現場では1つのミスが金目でいくらに相当するのかということを直接的に測定できません。一般的には時間(稼動率、リードタイム、付加価値時間比率など)や量(歩留、不良率、在庫月数など)の軸で管理することが直感的にも有効です。そのため、金目を時間や量に置き換えて指標の設定をします。図表2では、金額を時間や量に置き換えた生産活動におけるロスの観点を定義しています。

このような観点を用いて、「自社においてはROICの向上には労務費削減が有効で、その施策は配置人員の適正化で、その良し悪しを測るKPIは稼動率と標準時間達成率である」のように経営から現場までを金目指標・課題・施策・量や時間指標と展開し、実行していきます。


図表2 生産活動におけるロスの観点と費用科目の関連(例)



 5    まとめ                                                       

本コラムではROICの概要及び製造業においての活用のポイントについて述べてきました。

 ・ROICのメリットは「事業別に・分けて・見る」ことができること 
 ・ROICからの経営で見るKPIと現場で見るKPIの展開はぶつ切りにせず、繋がりを持つこと 
 ・売上向上、費用削減、資産効率化の3つの観点で課題と施策を展開すること 
 ・施策を重点化し、現場改善活動の良し悪しを測るために量や時間軸でKPIを設定すること

以上がサマリーとなります。ROIC向上のための3つの観点はどの製造業においても共通ですが、重点となる課題と施策は業種業態やものづくりの特性(生産量大小・品種数大小、設備中心の職場・人作業中心の職場など)により異なります。

第2回では製造現場視点から生産特性を類別し、類別ごとのより具体的な課題の把握とソリューションの方向性について、コラムの副題でもあります資本生産性向上を重点に述べたいと思います。  


   筆者プロフィール   
 山本 真也(やまもと しんや)

  株式会社日本能率協会コンサルティング チーフ・コンサルタント
  生産コンサルティング事業本部 生産エンジニアリング革新センター
 E-Mail : shinya_yamamoto@jmac.co.jp

 
経歴 

2002年  慶応義塾大学商学部 卒業
2007年  事業会社を経て、株式会社日本能率協会コンサルティング入社
2014年  チーフ・コンサルタント
 
製造業を中心に 品質、コスト、リードタイムの革新活動、ものづくり人材育成体系構築、生産管理・生産システム構築、
スマートファクトリー構築支援といったコンサルティングテーマで支援をしている。

【主な著書・論文等】
・第66回全日本能率連盟論文大会 全能連賞受賞

テーマ:「装置系製造業における 設備&労働生産性改革」 
・「5S」通信教育テキスト
・生産技術者マネジメントガイドテキスト
・「医薬業界のモノづくりにおける環境変化と課題」
・ICT・IoT・AI等活用事例集


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2024年4月1日 改定

以上

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