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はじめに
第1回は改善のベースは人材にあること、第2回はデジタルの役割を理解し、改善PDCAを早く回すために活用する重要性について述べました。本稿では、ものづくりの改善改革の目的は社会価値・顧客価値への貢献であり、中長期視点から自社のコア技術を見極め、貢献のために何ができるかをロードマップとして描くことの重要性を述べていきます。
1.ものづくり戦略の変遷
①戦略で掲げているビジョンは変化している
図表1のものづくり戦略の変遷ではここ10-15年でものづくり戦略として掲げているワードがどのように変化しているのかについて示しています。製造業を取り巻く環境変化は著しいといえます。直近の10年では震災、新型コロナウイルス感染症の拡大のような産業界としても成長が停滞し、危機となりうることが起きています。一方でそのような中でも10年スパンで見ると全体としては必ず再起し、成長を遂げていることも読み取れます。
成長を遂げていることの裏には戦略の変化と実践力があると考えます。変化に如何にして追随していくべきなのかを会社の意思として示し、実際に実行しているということです。近年では会社の意思が社会的課題を解決し、価値貢献することが製造業の役割であると変化しています。
②量的変化から質的変化へ
2010年頃までは製品や生産の戦略は「高機能、高性能、コストダウン、グローバル展開、シェア拡大、地産地消」といったキーワードが多く、自社製品の機能向上や事業拡大といった量的拡大を目的に技術を磨き、より良いものを届けることが意志として示されていたように思えます。震災、コロナ禍を経て、キーワードが質的成長へ変化してきており、「サプライチェーン全体のリスクアセスメント(特に分断されてラインがストップしてしまうリスクはどこにでもありうる背景)」、製品は「社会貢献や新たな事業の創造をすることを目的する」、生産は「フレキシブルに変化に対応するスピード」、地球環境の観点はISO14001などで以前からありましたが、現在は「SDGsやESG」の名称でグローバルにおいて待ったなしの状態となっているというような点が共通性の高いワードとして挙げられます。
化学系製造を例にした場合、BtoB取引が多く、取引先工程にとっての素材を製造する特性から原材料を占める原価構成は非常に高く、高騰による影響がとても大きい場合が多いです。またサプライチェーンが分断される予測できない事態が起こり得る可能性も非常に高いと思われます。そのために対応できることとしては「原料の政策在庫を多く抱える」「サプライヤー戦略として地域を分散して複数社抱える」「代替え原材料の技術開発」などが戦略として掲げられます。顧客貢献のための商品開発としては「環境貢献」「健康貢献」のような名目で開発を進め、研究開発投資、設備投資を進めています。
事業の方向性はこのように変化していますが、一方で不変的な内容もあります。それはものづくりにおける地道な製品技術開発(生産技術含め)、生産方式、WAYといわれるものづくりに対する基本的考え方や行動指針、品質改善や設備保全に代表される小集団活動です。これらはものづくりを支える基盤であり、伝統的に愚直に継続することを戦略にも明確に示されていることが多いです。またこれらを実現できている企業こそが業績面でもエクセレントな企業であるともいえます。
図表1:ものづくり戦略の変遷
出典:ものづくり白書2021、各社HPの中期経営計画、統合報告書、CSR報告書を参考にJMAC作成
2.ものづくりの競争力の源泉は現場にある
①改善・革新は現場で創出される、現場で磨き上げてきた技術こそが強みとなる
ものづくり戦略の変遷を見てきましたが、第1回で述べたように改善・改革を実現する源泉は人であり、人を育てるためには実践の場が必要です。また第2回で述べたデジタル役割を理解し、デジタル技術を活用すればより大きく生産革新は進展します。図表2ではこれからの業務改善における目指すべき姿(当たり前の姿ともいえます)を示しています。戦略を遂行するにあたり、ものづくりの基盤を強固にするために必要な姿であり、単に改善を継続するということではなく、目指すべき姿を明確に掲げ、推進していただきたいと思います。「改善活動や改善の幅」「目標・テーマレベル」「部門間連携度合い」「人材役割」のカテゴリで明示していますが、自社の取り組みと照らし合わせていただくと、それぞれの状況はいかがでしょうか? もしGAPがある場合は改善を強化するための課題となります。特に改善の幅と目標・テーマレベルのカテゴリが重要と考えます。ものづくりの流れを良くするために全体をスルーで見て、全体最適のためのネックとなる課題解決のテーマ設定がなされれば必然的に部門間連携で課題解決に取り組むことになります。活動を通じて人も組織も磨き上げることが大切です。
図表2:これからの業務改善における当たり前の姿
3.中長期的視点から改めて自社の強み、強化すべき点を考える
①改善は不変だが、ものづくりの理念や志を現場まで浸透させて継続的に推進すること
ものづくりに対する基本的考え方や行動指針のことを「ものづくりWAY」といいます。トヨタ生産システムに代表される自社における生産方式を思い浮かべていただくほうがわかりやすいかもしれません。「人と設備が協調した生産現場」「素材を通じて社会に貢献する」「後工程はお客様」といった考え方は典型例として挙げられるものです。業界に関係なく、化学系製造業においてもこれら考え方は共通です。自社の製品や製造の特性を踏まえて何をコアとなる考え方とするのかが重要で、トップからこのような思想を語り継ぎ、全員が理解できている状態に浸透させるための仕掛けや教育が求められます。
②サステナビリティの観点は化学系製造業だからこそ不可欠
化学系製造業のサステナビリティの観点は、主にCO2削減・循環型の資源利用・自然環境保護の「グリーン」と医療・健康の「ライフ」の2つを主と掲げている企業が多いと考えます。これは領域が広く全てに当てはまると言い切れない点はありますが、特に「グリーン」については主に化学系製造業の製品は素材や材料である、また製造設備は様々な設備が1つのプラントとして繋がっている装置型であり、エネルギー使用量は製造業の中でも多いほうの業界ではないかとの考えに基づいています。2050年にカーボンニュートラルを達成するといったグローバルを挙げての動きもある中、これらへの貢献は待ったなしで不可欠であるといえます。品質・コスト・生産性・納期という従来の製品・製造に関する評価だけでなく、サステナビリティ貢献がなければ商取引や金融取引そのものに影響をもたらす動きとなっています。現場で改善の基盤を構築し、磨き上げることは不変でありますが、これからの業務改善としてテーマアップ及び改善成果の評価に必ずサステナビリティの観点を入れなければならないことも大きな変化点です。
4.まとめ
本稿ではものづくり戦略の変遷、ものづくり競争力の源泉は現場にあること、変化が今後も劇的に起こり得ることを前提に、中長期的に自社の強み・強化すべき点を明確にした上で「ものづくりWAY」を浸透させ継続的に改善を行うことについて述べてきました。またサステナビリティ観点は今後必要不可欠な要素として改善によりどのように貢献するのかを盛り込むべきと最後に述べました。変化に柔軟に対応させるべきことと不変的に自社のコアな部分として強みを磨き続けることを分けて考えることが重要です。改めて自社を取り巻く環境や変化と共に自社の強みは何かについて見つめ直すきっかけとなれば幸いです。
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執筆者プロフィール
山本 真也(やまもと しんや) 氏 E-mail : shinya_yamamoto@jmac.co.jp
株式会社日本能率協会コンサルティング チーフ・コンサルタント
生産コンサルティング事業本部 生産エンジニアリング革新センター
- 経歴 -
2002年 慶応義塾大学商学部卒業
2007年 事業会社を経て、株式会社日本能率協会コンサルティング入社
2014年 チーフ・コンサルタント
製造業を中心に -品質、コスト、リードタイム等の革新活動 -ものづくり人材育成構築 -生産管理・生産システム構築、スマートファクトリー構築 といったテーマを支援している。
【主な著書・論文等】
- 第66回全日本能率連盟論文大会 全能連賞受賞 テーマ:「装置系製造業における設備&労働生産性改革」
- 「5S」通信教育テキスト(JMAM)
- 生産技術者マネジメントガイドテキスト(JMA)
- 「医療業界のモノづくりにおける環境変化と課題」メルマガ執筆
- ICT・IoT・AI等活用事例集
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