- 全2回 コラム -

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化学・食品製造業におけるRD-DXの進め方
第2回 守りのDXから攻めのDXへ










はじめに

化学・食品製造業におけるRD-DXの取り組みに着目し、第1回のコラムでは、活動推進のポイントやキーテクノロジーであるAIの使いどころについて解説しました。


従来の属人的なトライ&エラーによる開発の進め方では、失敗コストが増大している今日では極めて効率が悪いため、これをデジタル技術の力を利用して効率化することが期待されています。その際の考え方として、社内業務高度化の「守りのDX」と顧客への付加価値提供の「攻めのDX」の2つのアプローチで整理し、まずは「守りのDX」から着手してわかりやすい成果を創出することがポイントとなることを述べました。


第2回のコラムでは、「守りのDX」から「攻めのDX」に繋げるためのポイントと、経営陣に対してそれをわかりやすく伝えるためのDXロードマップについて解説します。



執筆者プロフィール
  • 株式会社日本能率協会コンサルティング シニア・コンサルタント
    R&Dコンサルティング事業本部 技術・開発戦略ユニット 技術部長

    高橋 儀光 氏


1. 経営陣が期待するDXと現場が期待するDXとの認識ギャップ

「守りのDX」から着手し、現場業務が明らかに楽になるというわかりやすい目的から始めることで、属人化の要因となっているアナログ媒体による各種業務データが自然にデジタル化されていきます。「攻めのDX」からいきなり着手すると、最初にぶつかる壁がこのデジタル化であり、現場の直接メリットがない中でデジタル化になかなか協力してもらえず、遅々としてDX活動が進まないケースを散見します。


ただし、「守りのDX」のみに終始してしまうと、経営陣の立場からはDX投資のモチベーションが低下してしまいます。というのも、経営陣がDXに期待することは、社内業務の問題点解決・できて当たり前のことをできるようにすることではなく、社外・顧客に対して付加価値の提供を実現して、市場競争力を強化し、収益性を高めることにあります。現場の立場からは、技術者不足・マンパワー不足の顕在化から、破綻しつつある開発現場を正常状態に戻すことをDXに期待していますが、経営陣のDXへの期待とは相当な認識のギャップが存在します。


この認識ギャップをそのままにしてしまうと、せっかくスタートしたDX活動も、途中で期待した効果が見込めないということで、PoC(概念検証)と呼ばれる業務改善アイディアに対してデジタル技術の実現可能な領域とゴール設定のための部分的な導入のみで終わってしまいます。その結果、本格的な導入に至らずDX投資が中断されてしまいます。

こうしたPoCのみで終わってしまうパターンは実際に多く「PoC地獄」と呼ばれるほどです。



2. 「守りのDX」から転じて「攻めのDX」に至る展開シナリオを描く

部分的な導入のみで本格的なDX投資に至らず中断してしまう「PoC地獄」から脱却するためには、業務高度化の「守りのDX」で蓄積されたデジタルデータを活用し、顧客にとって付加価値の高い新サービス・新商品へと発展させる道筋を示すことです。


つまり、最終的に「攻めのDX」を実現するために必要な最初のステップとして「守りのDX」を位置づける展開シナリオを提示するのです。この段階的な展開シナリオを「DXロードマップ」と呼んでいます。


以下に「DXロードマップ」のアウトプットイメージを示します。



< DXロードマップのアウトプットイメージ >





3. 「守りのDX」から「攻めのDX」に転じる際のポイント

では「守りのDX」からスタートし最終的には「攻めのDX」を目指すとして、「守りのDX」から「攻めのDX」にどのようにして転換していけばよいのでしょうか。


「守りのDX」を実施する中で、業務属人化の原因となっていたアナログ媒体の業務データのデジタル化が進んでいきます。「攻めのDX」へと転じるためには、この蓄積されたデジタルデータを活用した新サービス・新商品を考えることが基本になります。ただし、その際に陥りがちな落とし穴が、自社内に蓄積されるデジタルデータだけを活用して、新サービス・新商品を企画してしまう点です。ポイントは、自社の蓄積データと外部のデータとを掛け合わせることにより、顧客にとって価値のある新サービス・新商品を考えることです。


イメージしやすいように、化学・食品製造業の事例で説明します。化学・食品製造業においては、「守りのDX」でこれまで属人化していた配合や製造条件の調整パラメーター等がデジタル化され、社内のナレッジデータとして蓄積されていきます。この社内に蓄積されるデータだけでは社内業務の高度化には繋がり、間接的には納期が早くなるなどのメリットが考えられるものの、顧客にとって直接的なメリットのある新サービスにはなり得ません。そこで、社内に蓄積されるデータに、外部からのデータを掛け合わせて顧客にとって価値のある情報に加工できないかを考えるのです。


食品製造業であれば、製造条件のパラメーターの自社内部のデータと、原材料の需給バランスによる価格推移との掛け合わせで、原材料価格が高騰しているタイミングでは代替材料による新商品を迅速に市場投入できる仕組みとし、市場機会を逸失しない全体最適の商品展開をする。化成品製造業であれば、自社の反応評価結果をナレッジデータとして、技術文献調査などから顧客の用途仮説の外部データとの掛け合わせで、反応評価のパターンを用意する。これによって、従来は顧客から言われた通りの試作品をつくり品質検証して納めるだけであったところを、反応評価まで自社で手掛ける提案型の技術営業サービスを実現する等、顧客にとって直接的なメリットがある新サービス・新商品を検討するのです。


新サービス・新商品の企画検討の際には、RD部門だけではなく、営業・マーケティング部門とも連携して、部門連携によるコンカレント・エンジニアリングで実施することを強くお勧めします。


RD-DXプロジェクト体制に入っていなくとも、「○○の検討のために、1時間でよいので検討会に参加して知恵を貸して欲しい」といったライトな巻き込み方でも十分です。ご紹介した RD-DXの推進ポイントで、RD部門がデジタル技術の力を利用して事業貢献を実現するための、一助・ご参考になれば幸いです。





執筆者プロフィール


株式会社日本能率協会コンサルティング シニア・コンサルタント
R&Dコンサルティング事業本部 技術・開発戦略ユニット 技術部長

高橋 儀光(たかはし のりみつ) 氏



経歴
  • 2001年 東京理科大学工学部経営工学科卒業
  • 2001年 株式会社日本テレコム入社
  • 2006年 株式会社日本能率協会コンサルティング入社

新規事業テーマ探索~事業化実践を専門とし、エレクトロニクス・半導体・情報通信・素材・製薬・食品まで、幅広い業種において、新規事業開発でキャッシュインまで多くの実績を持つ。会社のコアコンピタンス・固有技術にまで深く踏み込んだリサーチを行い、固有解を出すことをポリシーとしている。近年はデジタル技術活用によるビジネスモデル変革、収益構造の抜本改革・DX戦略立案などのコンサルに注力。また、日本の大きな社会課題である事業承継にも取り組み、保有技術のバリュエーション手法の開発にも力を注いでいる。


【主な著書・論文等】
  • 第65 回 全国能率大会論文「異分野からの技術的発想の導入による新価値創造マネジメント」経済産業大臣賞受賞論文(2014年3月)
  • 日経SYTSEMS「技術者も必見! ビジネス立ち上げの成功法則」(2016年3月・日経BP)
  • 「新事業開発成功シナリオ」(2018年6月・同文館出版)
  • 「研究開発テーマの事業性評価と資源配分の決め方」(共著 2019年8月・技術情報協会)
  • 「未来予測による研究テーマ創出の仕方」(共著 2021年10月・技術情報協会)
  • 「技術の事業化」(共著 2021年8月・日本能率協会コンサルティング)

他寄稿多数




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    マレーシア:https://www.ppc.go.jp/files/pdf/malaysia_report.pdf
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附則

2024年4月1日 改定

以上

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