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      前回は、経営が期待するITに必要な機能と、現場の期待とのギャップについて見てきました。不確実性の高まる中、収集すべき情報は量・質ともに増大し・きめ細かくなる必要があるが、現場では現状業務の手間や負荷低減に関心が行きがちであるため、その中で必要な機能を選定、実装していくことがIT活用のポイントになるということをお伝えしました。今回は事業成果を意識しつつ、実践的なIT活用の道筋を考えていきます。

 また、成長領域である海外を踏まえた、拡大し続けるフードバリューチェーンをイメージしながらも、シンプルなIT関連テーマの探索・設定の見方とITシステムによる導入のイメージアップについて考えていきたいと思います。

   ITシステムとの親和性が高いテーマを発見する枠組みとして、図1に示すとおり、「内/外」と「情報/モノ」に区分してみる見方があります。「内/外」、とは、内は自社製造現場を起点に自社製品の流通に関わるサプライチェーン(SC)を、外は顧客を意識することと考えるとイメージしやすくなります。サプライチェーンの範囲は自社の企業規模により変化しますが、概ね原料運搬、保管、製品保管、物流拠点などから得られる供給情報と、販売拠点から得られる需要情報を含む横断的な範囲をイメージしてもらえれば良いと思います。

 この区分で考えると以下のようなテーマ領域が見えてきます。

(1)グローバリゼーション:国際市場の要求を迅速に反映、実施可能な状態にする
  • 外部情報収集(地域別食品規格、残留・汚染物質、食品添加物、包装規格、ラベル表示等)
  • リスク把握(取引先把握、取引リードタイム(船積期間)、PL法など保険契約等)
  • 外部関連者との連携
(2)コンカレントエンジニアリング:製品開発スピードの向上のための業務機能横断の情報をモノに転写する連携
  • 顧客(BtoB、BtoC)情報、ナレッジ、ノウハウのデータベース化 → 製品規格関連情報
  • 開発プロセス整備(検証ワークフロー、リスク情報)
(3)ロジスティクス :流通、販売に関する情報入出力を最小・最短にする製販物一貫体制
  • 製品の変動に対する需給調整機能による機会損失、在庫水準の最小化
  • 物量、ルートデータ(属人化→AIなど自動化)
  • 変動可能性の予測(需要変動の見通し→気候データなど外部データの活用)
(4)生産現場意思決定支援:情報精度・判断支援(データベース・AI・シミュレーション)
  • 詳細な実績データ(出来高、歩留り、生産性)
  • 事業目標に連動した生産性目標
  • 業務上の不具合、トラブル対応などのデータベース化(対応ノウハウのデータ化)
図1:フードバリューチェーンにおけるITテーマ探索の方向性


 これまで見てきたように、食品製造業ではモノを製造する設備機器への投資が優先される傾向がありました。図1で右側重視の投資姿勢と言って良いでしょう。そこへの従来のITの活用としては、作業者の入退館を管理するシステムや、作業者管理のためのカメラ設置、設備メンテおよび部品管理といった設備管理関連データをデータベース化して故障対応や部品発注を半自動化したり、製造指示データを需要情報から逆算する計算や、ラベルへの印字出力といった社内での製造作業を支援したりする機能の実装を主な狙いとしているものが多い印象があります。
 今後、経営成果を意識したIT投資のためのテーマ設定は、まずは右下の内部のモノの使用・活用状況、つまり生産実態を徹底的にデータ化・デジタル化することから始めることが重要ということは第2回で述べたとおりです。
 次に、そこを起点に、社内データを展開する範囲を社内~サプライチェーン全体へ展開していく方向でロジスティクステーマを追求していくこともできますし、製造データを基に作りやすい、リスクの少ないレシピ開発へ展開していくというコンカレントエンジニアリングテーマを設定することも可能です。
 その際には具体的なシステムとしての機能整備を行いITシステムを設計すると同時に、必要なデータの量と精度を想定することで、いつ頃自社として取り組める様になるのか、というロードマップを描くことができるようになります。以下、その具体的なイメージを図2に示します。ここでは吹き出しにあるデータをどの程度まで社内で整備するか、ITシステムの機能の設計の中で想定することで、現場のデジタル化・データ化と一体化したシステム検討ができるようになります。

図2:ロジスティクステーマとしての需給調整システム検討と実態データの連動イメージ


 食品製造において、今後の経営に貢献するITテーマの探索と実現に向けては、現場業務の負荷低減や設備稼働の補助機能という観点だけでなく、バリューチェーンを想定したテーマ探索と、現状・自社の実績データを活用した取り組みが必要であることを述べてきました。
 最後に、今後のバリューチェーンにおいて強化されるであろうポイントを、国内生産・海外輸出ごとのバリューチェーンに基づき検討した情報をご紹介します。紙面の関係ですべての説明はできませんので、ここでは①として原料加工のバリエーション・物量が増加に関するポイントのみご紹介したいと思います。
 家庭でもカットサラダの利用が加速していることを考えれば、この動きは広がっていくことが考えられます。とはいえ、カット原料は加工費分高コストになるため、無駄を極力排除する必要があります。そのために製造数から正確に逆算した原料情報の算出が必要になり、在庫水準も実態に即した精密な情報が必要となってくことが考えられます。その他のテーマについても、今後のバリューチェーン全体の動きを想定しつつ、テーマ探索を継続していくことが、経営に貢献する攻めのITを支えるIT担当に求められるリテラシー・基盤となるのではないかと考えます。今後の強化領域の検討にお役立ていただければと思います。

図3:食品製造業のネクスト・トピック


 本稿では全3回を通じて食品製造業における、経営者の意思決定に貢献するITの考え方、不確実性に対応していくためのマネジメントサイクル、具体的なITテーマの探索と実現に向けての考え方という観点から整理してお伝えしてきました。
  • 経営課題の解決に寄与するテーマ設定・言葉遣いをすること
  • アナログからデジタル化への3ステップ(デジタイズ、デジタイゼーション、スマート化)を考慮し、運用設計(日常的、低負荷、高精度な情報収集)、活用場面の具体化(確認、分析、フィードバック)を検討すること
  • 経営において、OODAサイクルといった意思決定のマネジメントサイクルの重要性が増してきている
  • 不確実性への対応としては、最初の観察対象となるデータの質と量を確保することが重要である
  • 観察対象となるデータの確保を進めるためには、これまでの現場起点のIT要件設定ではなく、実績データすべてを対象に、デジタル化すべきデータを具体化し、収集すべきである
  • 具体的なITテーマの探索は、「内/外」と「情報/モノ」に区分して検討する
  • 探索テーマのブラッシュアップは、生産現場意思決定支援:情報精度・判断支援(データベース・AI・シミュレーション)を起点として、拡張していくことで現場と一体化した開発が可能となる
  • 今後のバリューチェーンにおける動きを想定しつつ、テーマ探索を継続していくことが、経営に貢献する攻めのITを支えるIT担当に求められるリテラシー・基盤となる
以上がサマリーとなります。
本稿が今後の皆様の一つの指針になれば幸いです。




   執筆者プロフィール

島崎 里史(しまざき さとし)氏  E-mail : satoshi_shimazaki@jmac.co.jp

株式会社日本能率協会コンサルティング シニア・コンサルタント生産コンサルティング事業本部 プロセス・デザイン革新センター

【経歴】  
2003年3月  東京都立大学 理学研究科 修了
2007年12月 日本能率協会コンサルティング(JMAC)入社
2013年4月  チーフ・コンサルタント
2021年4月  シニア・コンサルタント

製造業を中心に、主に品質改善および生産性向上のコンサルティングを実施している。品質・原価の同時実現を競争力の源泉とする改革実現にむけた改善推進が得意。食品製造業での経験を活かし、フードチェーン全体の改革の必要性を感じ、農業から食品製造、流通小売におけるコンサルティングを推進中。農林水産省の食品製造業におけるイノベーション事業の責任者を複数年経験。

主なテーマは、食品製造業における生産システム・工程改善、品質管理強化、品質保証の仕組みづくりなど経営改革、生産性向上、作業効率化、収益改善、人材育成、研修などを中心に、コンサルティングを展開中。

【主な著書・論文等】

  • JMA 生産マイスター(品質軸) 1・2級執筆、スクーリンクテキスト編集
  • JMA 通信教育テキスト(QC改善コース) 執筆
  • JMA研修 品質保証セミナー、IE基礎テクニックコースなど
  • 「開発プランニング 5Steps開発のフロントローディングに向けた仕掛け」(研究開発リーダー)

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附則

2024年4月1日 改定

以上

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