医療機器業界で加速するデジタル化の推進にはFDA Part11をはじめとしたER/ES規制対応が必須です。しかしながらそのハードルは高く、どこから手をつけていいか分からないといった医療機器メーカのご担当者様が数多くいることも事実です。ここでは電子化がなかなか進まない要因や、電子化によるメリットおよび医療機器規制対応を実現するPLM(Product Lifecycle Management)ソリューションについて、事例を交えてご紹介します。
ER/ESやCSVが成果物の電子化のハードルに
中堅医療機器メーカにおいては、製品開発における成果物が紙での運用という状態が続いており、電子化が従前からの課題として存在しています。それでは電子化がなかなか進まない要因は何でしょうか?
①従来からの『紙文書管理』からの脱却ができていない
日本国内では厚生労働省が定める「ER/ES指針」や、米国ではFDAが定める「FDA 21 CFR Part11」(以降 「Part11」)などのER/ES(電子記録/電子署名)規制への対応のハードルの高さが挙げられます。
従来から規制当局の監査の際に行われてきた紙の文書での提示方法から脱却ができず、電子化を推進せずに従来どおり紙の文書での提示方法で済ませる意向が強かったためです。
②CSV(Computerized System Validation:コンピュータ化システムバリデーション)対応の大きな負担
CSVは、一般的なシステム導入とはプロセスやテストの方法が異なっていたり、開発のレベルによってバリデーションの難易度が分かれるといったように、CSV対応によってシステム導入が複雑化かつ負担を大きくしているためです。
電子化を検討する動き
しかしながら、最近になって製品開発の電子化を検討し始める医療機器メーカが増え始めています。そこには、次のような背景があります。
世の中の製造業ではDXへの取り組みが加速。医療機器メーカにもその流れが押し寄せてきています。薬機法改正による2021年8月からの添付文書電子化の義務化のように、規制の面からもデジタル化の必要性が求められています。さらに長期に渡って刷新できなかった基幹システムの老朽化が要因ともなり、規制対応と業務効率化を一気に進めようとする動きが出始めています。
なお、FDAの「Part11」や「Part820」(QSR:品質システム規制)が遵守されていないと、当局からWarning Letterが出され、最悪のケースでは米国への出荷停止といった事態になるため、何としても確実な対応が求められるところです。
製品開発の成果物を電子化するメリット
製品開発における成果物は、Part820の設計管理においてDHF(Design History File:設計履歴ファイル)と呼ばれ、仕様書、図面、製品構成などを含む設計に関する全ての記録をデザインレビューや設計バリデーション等の各時点で保管する必要があります。これらの全てを紙にプリントアウトしキングファイルに綴じ込むといったアナログな運用では、設計変更が行われることを考えるだけでもとても非効率であり作業ミスにもつながります。これらを電子化することにより、効率的かつ確実な運用が可能になります。
但し、設計成果物はExcelやWordなどで作成される文書だけではなく、BOMや変更情報など一般的にはデータベース上のテーブルで管理されるデータも含まれます。このような様々な成果物の運用管理にはPLM(Product Lifecycle Management)システムにより、文書以外の情報も一元的に管理することが非常に有効です。
実際に、PLMシステムでBOMなどの電子データを中心に運用を行い、大きな業務効率を実現する事例が増えていますが、以下に2社の事例をご紹介いたします。
●日機装株式会社様
「Part11」に対応可能なPLMシステムの構築による医療機器ビジネスのグローバル展開を加速
【導入事例】 ≫日機装株式会社様 Obbligato事例(リーフレット)はこちら
●オリンパス株式会社様
医療事業の修理業務における保守パーツ管理にPLMシステムを導入
・パーツリスト作成やマニュアルデータ管理工数を削減
・変更通知作成や拠点への配信登録作業が約50%改善
・CSV(Computer System Validation)対応、既存ソフトウェアの回顧的バリデーション対応を実現
医療機器規制対応を実現するPLMソリューション『Obbligato』
これらの電子原本管理のシステム化においては、「Part11」のようなER/ES規制に対応すべく、電子署名や改ざんされていないことをトレースできる監査証跡に対応したシステムであることが非常に重要です。
さらに、BOMなどの電子データをPDF形式の電子帳票化した文書として、電子データと一緒にPLMシステム上で管理することによって、文書を中心とした成果物管理を実現する運用事例もよく見られます。その場合は、電子データと文書が一致することをシステムとして担保する必要があるため、BOMや変更情報のワークフローと連動してシステム上で自動帳票化するといった対応がよく取られています。 そこで、NECではこうした医療機器メーカにおけるPLM導入の早期実現を図るため、医療機器メーカの製品開発成果物の電子化に求められる機能を提供しています。
加えて、システムを導入する際にバリデーションへの対応による負担を軽減するため、NECではバリデーション対応を考慮したシステムの導入手法をまとめた「Obbligatoバリデーションパック」を活用することで、効率的に進めていくことができるようにしています。
また、設計成果物は「Part820」で対応が求められる苦情やCAPA(Corrective Action and Preventive Action:是正措置・予防措置)との関連性も高く、CAPAをまわすことによって生じた設計変更でどのDHFを改版したのか、といったようにDHFとCAPAが関連性を持って運用されることが必要であり、将来的に苦情やCAPAを管理する「品質イベント管理」を拡張することで、それらが一体的に運用されるシステムにステップアップすることができます。
中堅企業様にお奨めの『ステップアップ導入方式』
医療機器規制対応を実現するPLMシステムについてお話しましたが、業務の効率化を実現しながら導入するためには、何がポイントになるでしょうか?ややもするとシステム導入が目的になり、日常の業務以外に過度な負荷や業務を強いられ、逆に非効率になるケースもあります。このような事態にならないように以下の進め方が重要となります。
①現状の業務課題とシステム導入の目的、優先度を整理する。
②システム導入の機能範囲、対象部門 そしてシステム導入による業務の変更点を整理し、導入計画を立案する。
③一気に必要なすべての機能を導入せずに、まずは優先度や改善効果の高い業務にシステムを適用し効果を体感する。
④効率化された工数等を次のシステム導入計画の立案・遂行に充当し、現実的かつ着実なステップアップを図る。
①、②については、自社のリソースだけでは、日常の仕事をこなしながら遂行することが難しい企業もあるとか思います。NECは課題の整理からシステム構想企画まで幅広い支援を行っておりますので、お気軽にご相談ください。
③、④については、以下の図のような『ステップアップ型』のシステム導入を強くお奨めいたします。システム導入範囲が広いと、他メンバー、他部門との調整や業務ルールの整理・見直し等の業務量が増え、さらにシステム導入コストも増えます。Obbligatoは、優先度が高く最も必要な機能をまず導入し、業務の効率化を実現した上で次のテーマの改善に繋げる段階的な導入が可能なライセンス体系になっています。さらに昨今は、まずは試行的に数名で利用し、パッケージが自社の業務に適合できるか、逆に業務をどう変えていけばパッケージに合わせて標準化を進め、定着が早めることができるのかを検討いただいた上で、ミニマムコストでの導入を目指す企業も増えております。
以上のように、医療機器メーカにとってER/ES規制対応やバリデーションは高いハードルとなりますが、これらを着実に実施し乗り越えて電子化を推進していく必要があります。電子化が実現できれば、規制対応とあわせて、データ共有による書類作成や問い合わせ対応といった付帯業務の削減やスピードアップなど様々な業務効率化の効果がもたらされます。さらに、製品開発QCD向上、DX推進の第一歩へと繋がります。ぜひNECネクサソリューションズと一緒に電子化を推進していきましょう。
※本サイトの法規制に関する記載内容にはNEC独自の解釈も含まれます。法規制への対応には最新情報を確認ください。