1.自動車業界は大変革期。部品メーカーが生き残るキーワードは「変化への対応力」
自動車業界は「100年に1度の大変革期」といわれており、自動車メーカーはCASEと呼ばれるトレンドの中、ビジネスそのものを大きく変えていく必要性に迫られている。車や周辺、道路状況との情報連携(Connected)、自動運転(Autonomous)、カーシェア・ライドシェアなどのシェアリングやサービス(Shared&Sevice)、そして、EV化へのシフト(Electoronic)の頭文字をとった造語であり、自動車メーカーはこのCASEに関連した技術開発などに経営資源を集中させている。逆に言うと、従来技術領域は部品メーカーに大きく依存することになってくる。そのため部品メーカーは、単なる部品供給を請け負うのみならず、自動車メーカーへの付加価値を高めるために、周辺領域を含めた設計提案、付加価値の高い製品開発等の取り組みが期待されるところである。もちろんコスト競争力が問われることは言うまでもない。
もともと、自動車部品メーカーに対するQCDの要求レベルは他の業界に比べても高い。重要保安部品など高信頼性の要求やIATF16949に代表されるような品質マネジメントシステムへの適合も求められる。昨今は、自動車の電気電子システム(ソフトウェアを含む)に対する機能安全規格であるISO26262への対応なども考えていかなくてはならない。電動化が進むにつれて、製品が複雑化、高度化していく中で、品質保証を確実に行っていくことが課題となる。
納期面では、必要な量を必要なタイミングで納入する、いわゆるJIT納入が前提である。それに加え、昨今の半導体不足や材料高騰問題など、物流や調達が不安定な状況でも、計画調整、在庫の持ち方を工夫しながらその変化にも対応していかなければならない。
そして、EVシフトによりエンジン関連部品の減少、競合の入れ替わりなど、周辺環境も変わってくる中、コスト競争力の向上は避けて通れない。
このQCDの要求に加え、ESG、特に環境面への対応も必要だ。日本でも2050年のカーボンニュートラル宣言がなされ、ESG投資も急激に増えている。プライム市場ではTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の要求もあり、非財務情報、リスク情報の開示が求められる。自動車メーカー等大企業がスコープ3のCO2排出量の算定が求められることから、自動車部品メーカーもCO2排出量の算定が必要となり、その後のCO2削減も必要になってくる。環境対応製品のための新製品開発、ものづくり現場では省エネを実現する設備の導入や運転が課題になってくる。
このように自動車部品事業を取り巻く環境は益々厳しくなり、何らかの変化が求められることは言うまでもないが、どのような取り組みが重要になってくるか、企業活動の機能をエンジニアリング領域、サプライチェーン領域・量産段階、フィードバック・改善機能という3段階に切り分けて整理をしてみたい。
2.自動車部品メーカーに求められる取り組みとは
①新製品開発段階において技術DBを活用した品質とコストの作り込み
<エンジニアリング領域>
新製品開発においては、基本的な機能面の要求から、環境にやさしい製品開発、小型/軽量化、さらには解体、分解容易性など、設計上考慮すべき点は増えてくる。開発期間の短縮が強まれば、十分な検証ができず、後工程での問題や納入不良となって経営を圧迫する。製品開発段階では、これまでと変わらず、フロントローディングでコストと品質を作り込んでいくプロセスが欠かせない。
また、昨今のものづくりでは、多品種化が進み、膨れ上がる部品点数によるコストへの影響が問題になっている。コストの増大への対応として、多品種への対応とともに、部品数や種類の削減をねらった製品群全体にアプローチをかける「モジュラーデザイン」や、個別製品開発段階で新規部品を無駄に作らないマネジメントなどが考えられる。このような考え方で製品設計からコストダウンの活動を考えていかないと、現場の改善の積み上げでは、大幅な改善は見込めない。
このようなモジュラーデザインや個別製品開発においてコストを作り込んでいくためには、部品別に目標値を割り付け、見積コストを見ながら達成度を評価し、設計者が早い段階からコストダウン検討を行える環境が必要だ。この時重要なのは、過去の量産品、類似品のコスト実績情報である。このコスト情報に、仕様情報(材質、重量、長さ)や加工情報(加工時間、加工数など)を組み合わせることで、コストダウンすべき設計諸元が見える化され、コストダウンの着眼が得られる。もちろん、サプライヤーのコスト査定にも活用できる。さらには、CO2排出量のシミュレーションもできるとなおよいであろう。前提としてはBOMが整備され、部品別の仕様が分析に必要な粒度で層別され、明確になっていること、そして、必要な実績情報が製造現場から吸い上げられ、活用できる仕組みになっていることである。PLMとERPを連携させ、細分化されたコスト情報を部門をまたいで共有できるシステム化が求められる。
さらに、製品の機能評価や工程のシミュレーションなど、デジタルを活用することで試作を最小化し、開発期間の短縮に貢献できると、製品開発段階での付加価値の向上につながるのではないだろうか。
②生産・供給を止めないようスケジューラー活用や、トレーサビリティ強化のためにIoT活用
<サプライチェーン領域・量産段階>
サプライチェーンにおける自動車部品メーカーの重要課題は安定供給であろう。材料高騰、半導体の納入問題、ロシア・ウクライナ情勢やコロナ禍での物流問題など、世の中の変化は今後も継続して発生するものと捉え、日々の変化に対応できる生産、調達環境の整備が必要だ。ものづくりにおける基本は、最適なものの流れと情報の流れを作ることであり、その流れを阻害する要因を捉え、対応していくことが求められる。
調達については、安定供給のリスクを踏まえ、柔軟に切り替えられるサプライチェーンを構築するとともに、発注、納品状況、コスト情報などを見ながら実際に運用(切り替え)していくことも想定される。
また、社内の生産においては、最適な流れを実現する工程の設計を前提とした上で、生産計画面からは、効率性と柔軟性の両面を考慮することが必要である。需要変動も多く、製造現場の人の流動性や設備トラブルなどの現場の変動が想定される中、どの設備(ライン)で何を製造するか、現場の状況に応じて臨機応変に計画していく必要がある。設備別・工程別のサイクルタイムや段取り時間をもとに、工程間のバランスのよい計画を立てることが課題になる。多品種や都度発生する変更に対しても、負荷なく対応するためにはスケジューラーの活用は有効となる。
また、昨今の品質不正やリコールの増大への対応も自動車業界に課せられた課題であると考えられる。このような背景からもトレーサビリティへの対応力に磨きをかけておきたい。昨今部品の共通化が進んでいる背景もあり、リコール範囲の拡大が指摘されているとのことだが、影響範囲を精度よく、迅速につかみ、顧客への迅速な回答と出荷停止や全数検査など迅速な製品処置は最低限求められる。昨今のIoTの活用により、部品1個1個の製造実績が取れるようになると、単なる顧客への回答や製品の処理にとどまらず、仕様情報と組み合わせながら、原因追及も迅速に行うことができ、再発防止力の向上にも寄与できる。ここでも、製造実績と製品仕様をつなぐことがポイントになる。さらには、1個1個の部品情報や、製造条件を捉えることで、個別の製造条件の制御も可能になり、多品種少量生産での1個流し、混流生産なども実現性が高まってくるのではないだろうか。製造現場におけるデジタル情報を活用し、QCDを高めることも継続して求められてくるだろう。
③継続的改善の一歩目はリアルタイムでの見える化。品質フィードバックにPLMを活用
<フィードバック・改善領域>
3つ目は、フィードバック、改善機能について考える。継続的な改善は自動車部品メーカーにとっての基本動作といってもよい。しかし、その当たり前の基本動作であるにも関わらず、目の前の開発、生産に追われ、十分な形で検討できていないケースが散見される。先送りせずに取り組むためにも、改善の原則である事実情報を瞬時に取り出し、検討できるかが勝負になると考える。キーワードは、その場で、リアルタイムに、高速に、だ。
製品開発段階では、初期流動管理の終了とともに振り返りの機能を入れて、開発プロセスの改善につなげていきたい。これまでの開発実績、ドキュメント、コスト推移、などの事実情報がシステム上で整理されていると、振り返りも効率的に行えるのではないだろうか。また、製造現場では、現場の製造実績をリアルタイムで収集、見える化し、改善検討する日々管理につなげていきたい。収集手段は設備からの自動収集、音声、カメラなど、選択肢は広がってきている。日々、人別、設備別、工程別などの情報を瞬時に見える化し、改善を考えるサイクルを作ることで、現場の生産性向上はもちろん、作業者の早期習熟のための教育への活用も期待できる。
3.まとめ
ここまで記してきたように、自動車部品メーカーに求められる要求は益々強くなるため、これまで同様、いや、それ以上にものづくりの競争力を磨くことが必要になってくる。特に設計と製造の連携がコスト競争力の重要課題であることは言うまでもないが、確実な成果につなげていくためにも、設計部門と製造部門が部品別・工程別のコスト情報を気軽に活用できる環境を整備することが重要である。製品、部品、工程別の実績情報を必要なメッシュ(層別)で整備することで、品質・コストファクターがわかり、実績を通じて基準値や情報の精度を高めることで、より品質・コストのさらなる拡大につなげられる可能性が高まってくる。事実情報を瞬時に把握できるようになれば、知恵を絞る時間を十分に持つことができる。そこに情報システムの活用が期待されているのではないだろうか。
執筆者プロフィール
辻本 靖(つじもと やすし)氏
株式会社日本能率協会コンサルティング 生産コンサルティング事業本部
クオリティ・エンジニアリング革新ユニット グループ長 チーフ・コンサルタント
製造業の開発・調達・生産領域におけるコンサルティングに従事。
生産性向上や品質改善等、全体課題の解決から現場と一体となった人材育成、
体質改善までを支援。品質テーマを多く手掛けており、品質保証体制構築支援、
開発段階からの問題発見力強化などに取り組んでいる。
設計品質、製造品質の改善/生産システム設計、工程設計/品質マネジメントシステム構築/サプライヤー品質向上 など